4つのR(まず備えるべきこと)ートラウマインフォームドアプローチ入門 4

前回はSAMHSAのガイダンス(PDF)から「トラウマとは何か?」を見ました。引き続きガイダンスを読んで行きましょう。

トラウマの構成要素の3つのEに続いて、トラウマインフォームドなサービスがまず備えるべきこと(assumptions)として4つのRが挙げられています。

Realize(理解する)、Recognize(気づく)、Respond(応答する)、Resist(抵抗する)

の4つです。

トラウマを理解する(Realize)

まず最初に来るのがRealize、理解することです。

TIAで大事なこと、それは組織であれプロジェクトであれ、関係者すべてがトラウマを理解しなければならないことです。治療者や専門職だけではなく、すべてのスタッフ、構成員にトラウマ理解が必要です。たとえば病院なら案内や受付のスタッフ、看護師、医師、など、病院に入ってから出るまでのすべてのスタッフがトラウマを理解していなければなりません。

トラウマについて何を理解しておくべきなのでしょうか。

原文から引用 クリックすると開きます

People’s experience and behavior are understood in the context of coping strategies designed to survive adversity and overwhelming circumstances,

人の経験や行動を困難や過酷な環境を何とか生き延びるやり方として理解する、ということです。その困難は、子ども時代の虐待のように過去のものもあれば、スタッフがDV被害に遭っているという現在のものもあります。また支援者の代理トラウマもあります。

理解が難しい行動、異常に見える行動にも理由がある、と考えるのはメンタルヘルスケアの基本です。それにたとえば「不穏」とか「感情失禁」とかラベルを貼って分かったつもりになるのではなく、そのときのその人なりの理由がある)と考えるのが大切です。その真逆なのが「不穏」のような医学っぽい用語を使うことで脳の問題(原因が脳にあるという「還元主義」)と決めつけてしまうことです。そのことで向精神薬の乱用、さらには人格ある存在という見方を忘れることで身体拘束などにつながり得ます。

その理由として過去現在のトラウマ体験を考えておく、というのがここで言われていることです。異常に見える行動は異常な体験(トラウマ体験)に対する正常な反応である、と考えるのがTIAの基本と言えます。必ずしも一つ一つの行動の理由が特定できるとは限りません。それでもこのように考えることは問題をその人の「内」ではなく「外」にあると見ることになります。これは治療や支援に大きな変化をもたらします(「患者と医師」を参照)。

原文から引用 クリックすると開きます

There is an understanding that trauma plays a role in mental and substance use disorders and should be systematically addressed in prevention, treatment, and recovery settings.

次に、精神疾患と薬物やアルコール乱用にトラウマが関わっていること、だから予防や治療や回復の場面で体系的にトラウマに取り組まなければならない、ということを理解しておくべきです。

アルコール乱用にトラウマが関わっていることは、日本では近年になって注目されつつあります。私自身の経験もそれを裏付けています。ACE(子ども時代の有害な体験)の影響はもちろんですが、DV被害がきっかけとなったケースも複数知っています。

原文から引用 クリックすると開きます

Similarly, there is a realization that trauma is not confined to the behavioral health specialty service sector, but is integral to other systems (e.g., child welfare, criminal justice, primary health care, peer–run and community organizations) and is often a barrier to effective outcomes in those systems as well.

トラウマが惹き起こす問題は精神医療の領域にとどまりません。児童福祉、刑事司法、プライマリ・ケア、当事者やコミュニティが運営する組織の領域に広がっています。そしてこれらの組織の成果が上がらないのはトラウマが障害物となっているからです。トラウマインフォームドアプローチがそこでも必要なのです。

長くなりました。2つ目のR、「気づく(Recognize)」については次のエントリーで。

注:「そのときのその人なりの理由がある」

医師になって1年目、研修医として働いていたとき、当時の指導医の吉岡隆一さんに「もっと正常心理で考えた方がいい。」と言われたことがあります。精神医学を勉強して、患者さんの「精神病理」に目が行きがちだった僕にとってはよい戒めとなりました。それからは理解の難しい発言や行動にも「ふつうの」(自分と同じような、共感できる)動機があると考えるようになりました。そして分からないときはあれこれ推測するのではなく本人に聞くようになりました。