「こんなことで診察に行っていいんでしょうか?」とか「こんなことで相談に来てよかったんでしょうか?」と言われることがあります。
詳しく聞くと、決して1人で解決できるような問題ではありません。相談してくれてよかった、と思いますし、たいていはお手伝いできることがあります。
クリニックちえのわでは初めての診察のとき、まず問診票(PDFファイル)に記入していただきますが、そこには「受診の理由」の欄があります。
「症状を治したい」が多いものの「病気かどうか知りたい」にチェックが入っていることもしばしばです。
思い切って診察に来られた方でさえ、病気かどうか分からない、ということが多いのです。これは他の科ではあまりないことだと思います。
何故でしょうか。
うつ病を例に取りましょう。診療の流れではPHQ-2を紹介しています。
最近 2 週間に以下のような問題がどのくらいの頻度でありましたか?
A.何かやろうとしてもほとんど興味がもてなかったり楽しくない
0全くない 1数日 2半分以上 3ほぼ毎日
B.気分が重かったり、憂うつだったり、絶望的に感じる
0全くない 1数日 2半分以上 3ほぼ毎日
A、Bの合計が3点以上の場合はうつ病の可能性があります。ただし、うつ病以外でもこのような状態になることはあるため、まず受診されることをお勧めします。
さて、PHQ-2で「うつ病の可能性がある」と判定される人の何割が自分を「病気」と考えるでしょうか。そして受診するでしょうか。
とても少ないと思います。その理由としては
- 心療内科・精神科の受診には抵抗感がある
- メンタルヘルスの知識が普及していない
が考えられます。2については一般市民はもちろん、医療関係者についても言えます。
メンタルヘルスの問題を抱えた人であっても身体の不調が伴っている場合はまずかかりつけ医や病院の内科を受診でしょう。
これは繰り返し指摘されているのですが、心療内科・精神科以外の医師は精神疾患を正しく診断するのはとても難しいようなのです。見逃してしまうことが多いのですが、逆にもう少し身体疾患の可能性を考えるべきところで、精神疾患と考えて精神科に回してしまうということもあると言われています。いわゆる過剰診断(overdiagnosis)と過小診断(underdiagnosis)の両方がある、ということです。
一般病院に勤務していたときは、診察依頼に「更年期障害」と書かれているときはうつ病、「うつかもしれない」は重症のうつ病、と見当をつけて診察に当たっていました。とは言え同じ病院内であれば、医師も患者も大きな抵抗なく心療内科・精神科を受診できるので、多少の過小診断/過剰診断は問題にならないでしょう。
一方、地域のかかりつけ医のレベルでは心療内科・精神科への紹介は医師にとっても患者にとっても抵抗があります。
1と2が相まって、なかなか受診につながらないということが起こります。
さてもう1つ、受診を妨げる要因があります。
3.自分の心、内的状態をモニターするのは難しい
ふだんの自分と違う、と感じてもなかなか「病気」とは思いにくい(昔からの言い方では「病感はあっても病識は持ちにくい」)、ということがあります。そこには知識の問題があるでしょう。精神疾患や精神障害に対する偏見あって「まさか自分が」と打ち消したい気持ちも起きるでしょう。しかしそれだけではなく、自分の心、内的状態を自分で知ることの難しさもあると思います。急な変化ならまだしも、ゆっくりと変化する場合は特に分かりにくいものです。
自分より家族の方が、毎日見ている家族よりたまに会う友人の方が気づく、ということもあります。しかし、気づいて心配する家族に「大丈夫。」と答え続け、「まだ大丈夫」と思っているうちに重症になった、ということも珍しくありません。
ではどうすればよいのでしょう。
- 心療内科・精神科の受診には抵抗感がある
- メンタルヘルスの知識が普及していない
- 自分の心、内的状態をモニターするのは難しい
この3点に限っても、直ちに解決できる問題ではありません。しかしできることはあります。次回はそれについて考えたいと思います。
→「受診を迷うとき3」につづく