抗うつ薬は半数の人が中断する

処方された通りに薬を飲む人は少ないことが知られています。

服薬アドヒアランス(注1)があまりよくない傾向は精神科領域でも同様のようです。

うつ病の患者さんにおいて、診療ガイドライン推奨治療を行った場合、その服薬アドヒアランス良好者は25〜50%にすぎないという報告があります。

また、精神科診療、プライマリ・ケア診療、いずれにおいても患者さんの約50%が治療早期に抗うつ薬療法を中止しているといわれています。

青島周一「服薬アドヒアランスとは」(『Gノート2018年2月』)

それでも、抗うつ薬を半数、またはそれ以上の人が中断する、というのはショッキングな事実ではないでしょうか。

海外のデータではありますが、日本でも事情は大きく変わらないと思います。後述するように、抗うつ薬には中断しやすい理由があるからです。

服薬を中断した患者さんのその後が気になります。

服薬中断がイコール治療中断ではありませんし、治療中断がイコール悪い結果を意味する訳ではありません。

うつ病について言えば、自然回復することもあります。中断しても、受診をきっかけに回復へと進む人もいるでしょう。

だからと言って、服薬中断が問題であることには変わりません。飲まれない薬がゴミ箱行きすることで莫大な医療費が消えている、という医療経済的な問題もありますが、臨床医から見て、この医者と患者のすれ違いはとても悲しいことです。

すれ違いをなくすには

クリニックちえのわは薬に頼らない診療を実践しています。とはいえ、薬物療法を全否定している訳ではありません。

必要と考える場合は薬を使うことを提案します。ただし、こちらができるのは提案して処方するまで。患者さんに服用していただかなければ意味がありません。

少しでもすれ違いをなくすにはどうすればよいのでしょう。

何よりも十分な説明です。それなくしては患者さんが抗うつ薬を飲み続けることは期待できません。

精神科領域においては、例えばうつ病患者の治療継続困難理由として、薬物依存への恐怖心、副作用への恐怖心などがあげられています。実際、SSRIを服用中の患者さんでは、重篤な副作用を経験すると、服薬中断率が約2倍に増加することが報告されています。

初めて向精神薬を服用する不安について、医療者はよく理解する必要があります。多くの医療者はまず薬の効果を考えるのに対して、患者は依存性・習慣性や副作用などマイナス面を考える傾向があると言われています。

そんな中、「弱い薬です。」などと言って安心してもらおうとする医師がいます。しかしそこで処方されるのがデパスをはじめとするベンゾジアゼピンだったりします(ベンゾジアゼピンの問題点についてはパニック障害に使う薬3を参照)。副作用についての患者の不安に応えるには、このような「気休め」ではなく、正直な説明が必要です。メリットとデメリットを提示し、服薬を勧める理由を説明することが医師の仕事です。

抗うつ薬ではどうでしょう。

よく使われるSSRIという種類の薬は、吐き気やむかつき、便秘や下痢、と言った消化器系の副作用が出やすいです。副作用は服薬し始めてすぐに出る一方で、効果が現れるのは早くて2週間程度です。最終的に、4週間から6週間で効果を判定することが勧められています。

50%の人が抗うつ薬を飲まなくなる、というのは、この副作用と効果の時間差が関係していることはまちがいありません。むしろ、何事もおっくうで、物事を悲観的に考えがちなうつの人が、薬の効果を信じて何週間も飲み続ける、ということの方が不思議です。

抗うつ薬を処方する場合、具体的には次のようにしています。

  1. うつ病について説明し、療養の仕方をアドバイスする(心理教育)
    • 休職が必要な場合は診断書を作成して安心して休めるようにする
  2. 薬の期待される効果と予想される副作用について説明する
    • 副作用が出て服薬を迷うときは連絡をお願いする

1は薬を使う使わないに関わらずすべての患者さんに必要です(注2)。うつ病を理解し、うつ病からの回復に向けたプランを知ることが先決です。服薬する意味もその文脈ではじめて理解できるのではないでしょうか。

2が抗うつ薬の場合特に重要であることはお分かりいただけると思います。初めての処方の場合は、次回の診察は早めにしますが、それでもたいていは翌週以降です。なので、いつでも連絡できるホットラインが必要です。

抗うつ薬については、そもそもそれがどのくらい効果があるのか、有害作用も考えれば服薬するメリットがあるのか、という、より根本的な問題があります。有力な臨床研究も最近発表されています。それを踏まえて改めて検討する予定です。


注1

日本薬学会の薬学用語解説の「アドヒアランス」の項目によれば

アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味する。

最近は、医師と患者の共同意思決定を強調したコンコーダンス(一致、調和→ Wikipedia)という語も使われるようになっています。

注2

各国にいくつもの治療ガイドラインがありますが、たいていは薬物療法だけではなく心理療法も行うことを勧めています。認知行動療法(行動活性化療法なども含む)や対人関係療法などうつ病に特化した心理療法もありますが、十分に話を聴いて患者さんの問題を理解すること、そして、うつ病について説明し、療養の仕方をアドバイスする(心理教育)ことが基本です。