明石ともしび会でお話したこと 1

6月24日にあかしともしび会でお話した内容を、会報に載せていただいた要約に即してご紹介します。

1.食事療法やサプリメント、漢方など様々な治療法がメディアを通じて流れてきます。当事者やご家族の「わらをもつかむ」 気持ちは分かりますが、それは「わら」の場合が多いです。しかし当事者やご家族が悪い訳ではないのです。そもそもの原因は、多くの精神科医が標準的な治療をしていないからです。

これは、事前に頂いた

最近読んでいる本で薬以外の治療法を色々調べている。オーソモレキュラーの本を読んでいるが、よく分からない。本当に効くのですか?

というご質問にお答えする中で述べたことです。

代替医療(alternative medicine)や偽(にせ)医療(quackery)は次々と現れるので、一つ一つ情報収集して検討することは不可能です。患者さんに「○○についてどう思いますか?」と聞かれることがときどきあるのですが、それを初めて聞くことが以前に比べて増えています。

ネットや書籍(最近は出版点数が増えている、特に新書)からの情報が信頼できるか、(それが治療法である場合)試すに値するかはそれぞれ自身で判断しなければなっているのではないでしょうか。判断する力、情報を咀嚼して活用する力=情報リテラシーを身につける必要があると思います。

簡単な偽医療の見分け方として、

  1. 何にでも効くかのように言う(たとえば、がんにも糖尿病にも統合失調症にも効く、など)
  2. 擬似医学的な説明で煙に巻く
  3. 高額な治療(保険適応外)を勧める

などがあります。ただし、これらに当てはまらない偽医療もあります。

しかしそもそも当事者や家族が代替医療、さらに偽医療にまで期待してしまうのは何故でしょうか。それは医療に期待できないからではないでしょうか。

もし最善の医療が提供され、手を尽くしてもこれ以上の改善が見込めない、というのなら、偽医療はともかく代替医療に期待するのはやむを得ないと思います。

しかし、私はそうではないと思います。そもそも精神科では標準的な医療が提供されていないのではないでしょうか。確かに、抗がん剤治療で言うような意味の標準治療は精神科にはありません。しかし国内外のエビデンス、各種のガイドラインはあります。それを参照するどころか大きくかけ離れているのが現状です。特に、薬物療法の偏重、その結果としての多剤併用(ポリファーマシー)です。

当事者や家族が「わら」にすがらなくても済む状況を作って行くのは、私たち医療者の責任です。

2.一方、ピアサポーター活動やオープンダイアローグなどは、精神疾患の治療法というより困っている人への支援方法であり、これは意味があります。

これは

漢方やピアサポータ活動、オープンダイアローグ、薬以外の栄養療法(鉄分やビタミン)などについて、最近の治療法としての紹介をして欲しい

というご質問に答えたものです。

ピアサポートについては、ピアサポート、協働と相互性で書きました。

有償の友人ではなく、誰かの世話をすることでは断じてなく、治療を提供することでもない。そうではなく、誰かとつながることでお互いが学び成長する、それがピアサポートである

このような存在としてのピアの役割は、精神疾患や精神障害に関わる領域にとどまりません。あらゆる人にとって、特に困っている人にとってピアの存在は重要です。実際、外国人、LGBT、シングルマザーなど、マイノリティに属する人々にとってピアサポートはすでに欠かせないものになっています。

オープンダイアローグにしても、日本では治療法、特に統合失調症の治療法として紹介される傾向があります。しかし、本来のオープンダイアローグは特定の疾患や障害に対する治療法と言うより、対話によってコミュニティの危機を解決する方法、ファミリー・グループ・カンファレンスなどと比べるべきものだと思います。このことは、機会があればお話したいと思います。

栄養療法はどうでしょう。

栄養はもちろん大切です。鉄やビタミンなど特定の物質が欠乏することで心身の障害が現れることも知られています。

しかし、欠乏症ではない人に、それらの物質を投与することで、精神疾患や認知症が改善する、というのは医学的な裏付けが乏しく、偽医療と言わざるを得ないものも多く見られます。特に保険外で行われる高価なビタミンC点滴などはお勧めできません。

3.統合失調症の人は、薬を一生飲み続けなくてはいけないというのは根拠が乏しいです。最近のオランダの調査では、薬を漸減・中止した人としなかった人で2年後に比較すると、再発率は中止した人の方が多いが、社会復帰した人も中止した人の方が多いです。7年後に比較すると再発率の違いはありません。

紹介したのはWunderinkらによる次の研究です。

Recovery in remitted first-episode psychosis at 7 years of follow-up of an early dose reduction/discontinuation or maintenance treatment strategy: long-term follow-up of a 2-year randomized clinical trial

Wunderink Study

 

 

 

 

研究によれば、7年後には再発の少なさ、生活機能、完全回復、いずれの点でも薬を飲んでいないグループが同じか上回った、ということです。

抗精神病薬のメリットデメリットについてはこの研究だけで決めることはできません。しかし「統合失調症の人は一生(抗精神病薬の)服薬が必要」という主張の裏付けが乏しいことは少なくとも言えます。

特に、医師は安易に「一生薬を飲まなくてはいけない」と言うべきではありません。逆にこのような発言を受け入れられず通院を中断するケースすらあります。

4.薬を長期間漫然と服用するのはテメリットが多いです。たとえば頭痛薬を長期間連用すると頭痛が慢性化します。(「慢性連日性頭痛」)。
5.薬を一生飲み続けなくてはならないと言うのは、医師の思い込みではないかと思います。

服薬を続けることとやめること、それぞれのメリット・デメリットについて情報提供し、患者さんと一緒に考えて決めて行く、医師に求められるのはそういう姿勢だと思います

ちなみに、1日4時間以上の頭痛が月に15日以上起こるとき「慢性連日性頭痛」と診断されます。その一部は鎮痛剤乱用によることが知られています。向精神薬にも一部、乱用しやすい薬がありますし、長期服用による有害作用が指摘される薬もあります

つづく