標準的な治療 ― 不眠症について 2

前回は次のようなことをお話しました。

  • 眠れない、ということが即問題という訳ではない
  • 対策が必要なのは、睡眠不足で日中に眠気が強く、日常生活に支障を来しているとき

UpToDateのすすめる不眠症の治療

ここで標準的な不眠症の治療を見ておきましょう。エビデンスに基づいた、信頼性の高いもの、ということで、UpToDateがすすめる治療を紹介します。UpToDateとは、オンラインの医学教科書で、名前の通り最新研究に基づいて常にアップデイトされています。

  •  すべての不眠症の患者は不眠症を引き起こしたり悪化させる合併症、精神疾患、物質乱用、睡眠障害(注)について治療を受けるべきである。また睡眠衛生刺激制御法などの対処法を教わるべきである
  • それでも重症の不眠症が続くときは、薬物療法よりも不眠症の認知行動療法(CBT-I)を勧める
  • それでも不眠症が続くときはCBT-Iと薬物療法を併用する。薬物療法単独は勧めない
    • 寝付きが悪い場合は短時間作用型の薬を勧める
    • 途中で目が覚めて眠れない場合は長時間作用型の薬を勧める。目が覚めたときにゾルピデムの服用でもよい。ただし、日中の眠気、運転の問題、めまいに注意。
  • 薬と薬以外の手段(CBT-Iなど)を併用する場合は6から8週間続け、効果があればその間に薬を減量中止する。もし再び眠れなくなれば、長期の治療を行う前に専門医療機関で再評価する
  • 薬だけの治療を長期間続けることは望ましくない

薬以外の手段を優先、薬は薬以外の手段とセットでのみ使う、ということになっています。これは最近の欧米のガイドラインの特徴でもあります。

クリニックちえのわの治療

ただし、この種のガイドラインはすべてそうですが、既製服のようなものです。合う人と合わない人が必ずいます。実際には、一人ひとりに合ったオーダーメイドな治療を患者と医師の共同作業で見つけ出して行きます。

ただ、クリニックちえのわでは薬以外の手段を優先する、という点は守って行きます。特に、睡眠衛生と刺激制御法は必ず試していただくことにしています。次回はこれらについて説明します。簡単にできる方法なので、眠れない方はすぐに試していただけると思います。

注:睡眠障害(sleep disorder)とは不眠症とは違った睡眠についての病気を指します。比較的多いものは、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群でしょうか。その他に睡眠相後退症候群、レム睡眠行動障害、ナルコレプシーなどがあります。ここでは詳しくは触れませんが、「眠れない」と心療内科・精神科を訪れる人について、これらの病気を見逃さないことが重要です。