精神科医との面接で自分の力を発揮するために ー ちえのわライブラリー 5

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ちえのわライブラリーもにぎわって来ました。

2017年10月30日

↑ これが…

↓こうなりました。

2018年5月10日

 

最近は、診察室に招き入れるのをためらうほど、熱心に読んでおられる方も。

そこで久しぶりにリストを更新しました。

本の紹介も再開します。

今回は

パトリシア・ディーガン著『精神科医との面接で自分の力を発揮するために』

です。

力の不均衡を変える戦略

 

精神科の受診はたいていエンパワーの反対で、自分が持っている力を失っていくという経験です。診察は通常15分から20分くらいで、医師のおざなりな質問に答え、生活を劇的に変えてしまう強い薬を処方されて、帰ることを期待されています。診察では 精神科医が権力者の地位を占め、私たちは静かで、質問もせず、受身の患者の役割を果たすことを期待されています。そして薬を指示通りに飲んでいればほめられ、指示通りにしていなければしかられたり、罰せられたりするのです。
私は何年もかけて薬の処方を決める診察場面での力の不均衡を変えるために、いくつかの戦略を立てました。そうした戦略を皆さんと分かち合いたいと思います。

書き出しの部分です。

どのような印象を持たれたでしょうか。

  • 診察でエンパワーされるのではなくむしろ力を失う
  • 医師の型通りの質問に答えて薬が出るだけの診察
  • 薬を指示通りに飲むことが何より重要とされる

これは日本でも違いはないのではないでしょうか。そこにあるのは医師と患者の力の不均衡です。ノントラウマインフォームドと言うこともできます(→ トラウマインフォームドアプローチ入門 1 )

そうであれば、ディーガンの「薬の処方を決める診察場面での力の不均衡を変える」戦略は日本の精神医療ユーザーにも役に立つのではないでしょうか。

薬をのむ人はダメな人?

さて、最近、減薬・断薬に関心が集まっています。これは向精神薬の不適切な処方、特に、不合理な多剤併用療法(polypharmacy)が広がっていることから当然の動きでしょう。

しかし、ディーガンは

薬を飲むかどうかは正邪、善悪とは無関係です

と言います。

かつて私は服薬は弱さの現れであるとか、薬をやめられた人は私より立派な人たちだと考えていました。でも今はそう思っていません。回復には正しいやり方も間違ったやり方もないのです。最もよい生き方ができるような方法で自分とつきあうことこそが重要なのです。私は服薬している時期も、していない時期もあります。服薬は 個人の選択の問題で私が決めるのです。

飲む飲まない、何をどう飲むかを自分で選べることが重要なのです。

訳者の長野英子さんもあとがきで言っています。

服薬するのは医者ではなくて私たち自身、ですから自ら主導権を握って自ら判断しながら服薬したりあるいはやめたりすることが重要です。 服薬するか否かは白か黒かではなく善悪でもないということがまず重要。

賛成です。

ディーガンの方法

「薬の処方を決める診察場面での力の不均衡を変える」を言い換えると、医師が一方的に決めた処方に従うのではなく、対等の立場で話し合って、最終的には飲む薬は自分で決める、ということになるでしょう。

ただしそれは、言うほど簡単ではありません。

そのための方法をディーガンは示します。

  1. 薬について今までとは違った見かたを学びましょう
  2. 自分についての見方を変えるよう学びましょう
  3. 精神科医についての見方を変えましょう
  4. 準備をして精神科医との面接に臨みましょう

それぞれの手順について、詳しくは実物を手にとってご覧いただければと思います。

巻末に『精神科医との面接の準備ノート』などの書式が収録されているのも親切です。コピーして使うことができます。

以下、いくつか印象的な箇所を引用しておきます。

服薬は受身の姿勢を意味しています。私は受身にならずに、むしろ自分の回復に向けて一つの手段として薬を使うことを学びました。回復の過程における薬の使い方を学ぶとは、薬を試したり、減らしたり、あるいは薬をやめることを良く考えて計画し検証することです。

受身の姿勢から脱して、自分のことは自分で決めること、自分の人生の主人公となることが回復(リカバリー)の鍵です。

症状と苦痛を楽にできる薬以外の手段はたくさんあります。幻聴 、妄想、偏執、憂鬱、強迫的考え、自傷、フラッシュバック等々に対処する戦略を時間をかけて学びましょう。私は服薬量を減らしたり、薬を使わずにすませるのに役立つ薬以外のさまざまなやり方を身をもって試しながら見つけてきました。

薬は手段に過ぎませんし、最善の手段という訳でもありません。

「薬のおかげで気分がよくなった」という話をよくききます。でも良くなった原因すべてが化学薬品のおかげではないのです。薬が役に立つとしても、回復し、その状態を維持するために自分がしてきたことすべてを思い返してみてください。回復へのドアをあけてくれたのは薬かもしれません。しかしそのドアを通り抜け、新しい人生を築き上げるのはあなたの勇気なのです。

悪くなったのは自分のせい、よくなったのは薬のせい、という考え方に陥らないようにしましょう。回復するのは何より本人の力によるのです。

歯医者や検査結果を聞きに行くときに友人や支援者に一緒に行ってもらう人はたくさんいます。精神科医との面接に友人と一緒に行 くことはとても意味があります。特にあなたが「受身の患者」という役割を初めて打ち破り、自分自身の力を取り戻すことを学ぼうとしているときには。

医師と一対一では自分の意見を言いにくい人は友人や支援者、仲間に同席してもらいましょう。

私は精神科医と会っているときにとても不安になり、そのために重要な情報を聞き逃してしまうことがあります。面接を録音しておけば、後で聞きなおすことができ、私が聞き逃したかもしれない情報を拾うことができます。録音する前にはいつも許可を求めました。嫌がる(訴訟を恐れて)精神科医も何人かいましたが、私がなぜ録音したいかを説明するとみんな同意してくれました。

医師の同意を得た上で録音するのはお勧めです。信頼関係ができている医師であれば断らないのではないかと思います。クリニックちえのわでは、診察の録音は原則OKです。ご希望の方は録音機器(スマホ、ボイスレコーダーなど)を準備の上、お申し出下さい。

ライブラリーの貸出

ちえのわライブラリーの一部は貸し出しています。貸出可能な本についてはリストをご参照下さい。

『精神科医との面接で自分の力を発揮するために』も貸し出しています。ご希望の方はスタッフにお申し出下さい。

また版元から1部500円プラス送料140円で取り寄せできます
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または
〒165-0027 東京都中野区野方4ー32ー8ー202 山田方 絆社
までお問い合わせ下さい。

クリニックちえのわはもちろん、他院に通院中の方も、このブックレットを活用して「自分の力を発揮」できるようになれば、と願っています。