心身両面のケア

高齢や身体障害で、心身両面のケアを求めている

高齢の方や身体障害のある方は、メンタルな問題だけでなく、身体合併症を持つことがしばしばで、こころとからだの問題が関連し合うこともあります。クリニックちえのわでは通院が難しい方への訪問診療を行います。そこでは心身両面のケアが求められます。

訪問診療あるいは在宅医療については別にお話する予定ですが、実は身体合併症はこれらの方だけの問題ではないのです。

つい先日、こんな記事がありました。

精神障がい者の平均余命は20年以上短い 東京大と支援団体が初調査(JCast ヘルスケア)

「20年以上?!」と驚かれた方も多いと思います。しかし、国際的にはこの種の報告は珍しくありません。たとえば以下のもの(上記とは比較にならない大規模研究)は有名です。

Understanding Excess Mortality in Persons With Mental Illness: 17-Year Follow Up of a Nationally Representative US Survey

一般には精神疾患を持つ人の平均余命は一般人口のそれに比べて10〜20年短いと言われています。そして、かつて思われていたように自殺や事故による死ではなく、早すぎる病死が大半であることも分かっています。

精神疾患を持つ人は身体疾患を持ちやすい

と言ってよいでしょう。ではその原因は何なのでしょう。 Wardら(2015)は以下を挙げています。

  • 健康を損なう生活
  • アルコールなど物質乱用
  • 貧困など社会経済的要因
  • 精神疾患の治療への悪影響
  • 向精神薬の代謝への影響(metabolic effect)
  • 十分な医療が受けられない

これらに加えて、心身両面に影響を与える子ども時代の有害な体験(ACE)が挙げられることもあります。

どのような対策があるのでしょう。冒頭にあげた国内の研究では、

日本のように身体医療と精神医療が二分されている国では、双方のコミュニケーションを推進し、重度精神疾患をもつ人の身体的ケアを向上させる必要があります。

とあります。対策としてはやはり「身体医療と精神医療」の統合、ということになると思います。ここでは漠然としか述べられていませんが、統合の試みは海外ではすでに行われており、Integrated Care(統合的ケア)と呼ばれています。

「双方のコミュニケーション」としてたとえば、精神科と他の科で患者さんを互いに紹介し合う、ということでは精神障害者の余命を改善できないことはすでに分かっています(上記論文より)。一歩進んで、精神科の医師がプライマリ・ケアの分野に踏み出し、地域医療で積極的役割を果たすことが必要です。

Raney(2013)は精神科医師の役割として次のように述べています。

  • 薬物の影響を最小にする
  • 薬物の影響による慢性疾患を定期的にチェックし悪化を見逃さない
  • 禁煙、運動、食事など生活習慣について相談する
  • プライマリケアが利用できないとき、慢性疾患の治療を行う

メンタルヘルスケアには看護師、ソーシャルワーカー、心理士など様々な専門職が関わっています。しかし、これらは何より医師の役割です。

特に、真っ先に挙げられているのが薬物の問題であることは注目すべきです。特に早すぎる病死の原因となる心筋梗塞などの心臓病は、オランザピン(ジプレキサ)など抗精神病薬によるメタボリック症候群が関係しています。薬物療法を行う場合は、責任を持って薬のからだへの影響を評価することが医師に求められます(もちろん、薬に頼らない診療も重要です)。

クリニックちえのわの医師は、主に在宅医療の分野でかかりつけ医としての経験を持っています。また一般病院で心身両面での主治医を担当しました。そこで得た経験と知識を活かして、クリニックに通院する方を心身両面でサポートして行きます。

そして将来的には、医師をはじめとする専門職、そして非専門職(特に、精神障害を持つ仲間によるサポート、すなわちピアサポートがこの分野では重視されています)と協力して、身体医療と精神医療の統合、とまでは行かなくとも、その橋渡しができたら、と思います。

身体医療と精神医療の統合、Integrated Careの話はもう少し続きます。