薬が増えて減らないのはなぜ?

日本の精神医療にはいくつもの問題があります。その中の1つが多剤大量処方の問題です。これについて、患者さんからもスタッフからもよく聞く疑問が

薬が増えるばかりで減らないのはなぜなの?

というのがあります。これは私ではなく他の医師の処方についてなのですが、確かにもっともな疑問です。

多剤併用の要因

何故多剤併用になるのか、それが長期間続くのか、そこに医学的な根拠を見出すのは難しいので別の要因を考えなければなりません。

一部の人たちが言うような悪意や営利主義は仮にあっても稀でしょう。こう言ってよければ、もっと人間臭い要因があるのではないかと私は考えています。

PillayとGhaemi(2002)は次のような要因を挙げています。

医療者側

  • ガマンできない
  • 「多い方がよい」という信念
  • 無知
  • 他の治療法を知らない
  • 減量を考えない(PTSDに抗精神病薬を使用した場合のアカシジアなど)
  • 自信のなさ、強がり
  • 患者の要求に屈する、「黙らせるために」処方する
  • 診療報酬上の問題
  • 診察時間が短いため、診断を見直すより薬を出してしまう

患者側

  • 薬が効かなくなる不安
  • 薬物乱用

辛辣な見方ですが、2017年の日本でも当てはまる項目が多いのではないでしょうか。

日本で精神医療で起こっていること、その問題点

おそらくpolypharmacyはむしろ日本に多いのではないかと思います。日本では精神科・心療内科の医師は「他の治療法を知らない」と言うよりむしろ「この治療法でいい」と考えている印象があります。

  1. 患者さんがメンタルヘルスの問題について話す
  2. 「症状」を数えて診断する
  3. 「診断」に従って処方する
    1. 効果がない場合、薬を追加
    2. 効果がある場合、同じ処方を続ける
  4. 減量や中止をすると再発するかもしれないと不安でそのまま出し続ける
  5. それでも再発すると薬を追加(4に戻る)

単純化するとこんなことが起こっているのではないでしょうか。

2には精神科での診断の問題(これについては改めて考えてみたいと思います)が、3では薬物療法偏重、薬に頼る治療の問題があります。

4から6では薬を出すことによって「症状」が悪化したり(PillayとGhaemiの例では副作用であるアカシジアを病状悪化と見誤ってさらに増量する)「症状」は改善しても身体や生活に悪影響が出たりということが見逃されがちです。さらに、薬の再発予防効果についても短期的にはともかく長期的には疑問視されはじめています。薬は出せばよい、多ければよい、という訳ではないのです。

これからの心療内科・精神科に求められること

向精神薬の有害作用について医師、特に心療内科・精神科の医師はこれまで無頓着に過ぎたのではないかと思います。これからの医師には、薬のからだへの影響、生活への影響を評価して、薬を使う場合でもより慎重であることが求められていると言えるでしょう。(「心身両面のケア」もご参照下さい)