眠れない ― 不眠症について 1

頭が痛くなったことが一度もない、とか、肩こりがどんな感じなのか分からない、という人にたまに出会います。「いいなあ」と思いますが、それよりも羨ましいのは、いつでもどこでも眠れる、眠れないという経験がない、という人です。

たいていの人は眠れなかったことがあると思います。かくいう私もそうです。寝付きは悪くないのですが、12時過ぎてから寝ても、朝早く目が醒めてしまって、たいていは5時台に起きてしまいます。日中の眠気もあります。仕事、特に診察に差し障ることはありません。なぜかそのときだけは眠気を感じません。

眠れないで困っている

とはいえ、よく眠れなくても困っていない人も多いと思います。心療内科・精神科を訪れる人は眠れなくて困っている人でしょう。

中には、睡眠が問題と言うより、困っていること自体が問題、という人もいます。たとえばよくあるのが、夜何もすることがなく時間を持て余して早く寝たい、でも眠れない、という人(注)。そもそも眠くないのに眠るのは無理なのです。ふつうの生活をしている人であれば午後7時台から眠る、というのはまず無理です。その時間帯に眠い、というのはよほどの睡眠不足でなければめったにありません。ふつうの生活リズム、睡眠覚醒リズム(サーカディアンリズム)はそうなのです。

ただし、嫌なことばかり頭に浮かんで憂うつだから寝てしまいたい、というのであれば、心療内科・精神科に相談する意味はあります。そういう困りごとが解決できるかもしれないからです。

不眠症(睡眠障害)

実際に睡眠不足になっている場合は「不眠症」と呼ばれます。睡眠不足かどうかの基準は睡眠時間ではありません。最適な睡眠時間は人それぞれです。疲れ具合、日中の過ごし方によっても違いますし、年齢によっても違います。

睡眠不足かどうかの基準は、寝た感じ(熟睡感)がするか、日中の眠気が強いか、の二点、特に後者です。眠気が強く日中の生活に影響している場合は対策が必要です。

(このあたりのことは厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 ~快適な睡眠のための7箇条~」にも記されています)

そうでない場合は、「まあいいか」で済ませて大丈夫です。ただし、そう思えない場合、それで済まない場合(たとえば上に挙げた「寝てしまいたい」ケース、どうしても気になってどんどん眠れなくなる場合、など)は心療内科・精神科に相談するのも1つの方法だと思います。

次回は、実際に睡眠不足で「不眠症」と診断される場合の対策についてです。

 

注:子や孫と同居している高齢者で家族の団らんに入って行けず居場所のなさを感じている、という方は少なくありません。夕食後早々に自分の部屋にこもってしまい、することがないので寝る、というパターンになると、眠れなくて困ることがあります。この場合、早く横になって寝付けないというだけでなく、横になっていること自体が睡眠の妨げになります。横になる時間を短くすることはよく眠るためのコツの1つです。これについては改めて詳しく説明します。