明石ともしび会でお話したこと 3

6月24日にあかしともしび会でお話した内容を、会報に載せていただいた要約に即してご紹介して来ました。遅くなりましたが、今回で完結です。

未読の方はこの機会にも合わせてどうぞ。

9. 現状に満足しない方は減薬を考えてよいと思います。ただし、離脱症状があるので、減薬は慎重に進める必要があります。
10. クリニックちえのわも薬物療法は行っていますが、薬を処方しているのは患者さんの半数です。メリット・テメリットを考えて処方しています。

「減薬は慎重に」。これは改めて強調したいと思います。自己判断で減薬または断薬してうまく行った…そういう人がおられることは確かです。しかし、離脱症状のせいで失敗することがあります。そうなると、薬を減らせることの不安が強くなり、かえって減薬が難しくなってしまいます。

「メリット・デメリットを考えた処方」ですが、これは薬を開始するときだけの話ではありません。薬を飲んでいる限り、メリットとデメリットを継続して評価し続けることが必要です。

たとえば、開始するときに現れなかった副作用が後に現れることがあります。増量で現れる場合もありますしそれ以外の場合もあります。必要なことは、薬について率直に話し合えることでしょう。

クリニックちえのわでの処方状況については以前報告しました。

薬なしが60%薬ありが40%

薬あり40%のうち、他院からの薬を継続処方している方が26%ちえのわで新たに処方した方が14%です。

ちえのわ中間報告 1 ― 薬に頼らない診療

今年1月2月の集計ですので少し古い数字です。診療方針が変わらない以上、数字も大きくは変わらないと思います。ただし、近いうちに集計をアップデートしたいと考えています。

11. 治療の目的は何かを考えることが大事です。穏やかに過ごせること、本来のその人らしく過ごすこと、そしてできる範囲で社会参加すること。服薬もそのための一つの手段です。逆にそれを妨げることになっていないか一度見直してもよいと思 います。実際、その意味で最適な服薬をしている人は何十人に一人ではないかと思います。

あらかじめ頂いた質問にこのようなものがありました。

薬の多量投与で運動神経や気力減退が激しい。減薬で少しでもつらい気持ち(30kgの荷物を背負ったしんどさ)から少しでも解放させてやりたいが、可能でしょうか

切実な問題です。

特に服薬が長期になると、「何でこんなにしんどいのに薬を飲まなくてはいけないのか」とご本人も周囲も疑問に思うことがあります。服薬の負担感が強くなるのです。

本来、目的、期待できる効果、予想できる副作用、などを比較検討して薬は処方されているはずです。「はずです」と言うのは、それが曖昧なことがあること、医師がそのつもりでもそれが患者と共有されていないこともあるからです。

特に長期に服薬している場合、主治医が何度か交代していることは普通ですし、患者さんの側も習慣のように服薬していることがあります。

Wunderink研究が示すように、服薬していることは生活機能に支障をもたらしがちです。再発防止効果についても長期的には疑問です。

このような患者さんが受診されることもあります。特に多剤併用になっているときは悩むことがしばしばです。すべての薬が必要ということはあり得ません。なのである程度の減薬はできるはずです。しかしどの薬からどのように減らせるか。リスクも伴うので悩むのです。

12. 薬では幻聴を減らすことはできても幻聴の中身を変えることはできません。その人なりの解決策を考えるしかありません。 人間関係の問題が原因となる場合もあります。認知行動療法で幻聴の対処方法を考えることがよい場合もあります。

これについては幻聴は病気?で、幻聴の内容とACEの関係について書いています。ご参照下さい。この続きを書きたいと思っています。

13. 妄想も同じです。妄想がなぜ出て来るのか、一緒に考えて行くのがよいです。
14. 精神疾患からの回復には、環境の改善、家族、友人、周囲の支援者からの支援が何より大事だと思います。

これについては改めて言うまでもないでしょう。


最後に。

このような場でお話するとき、どうしても薬の話が中心になります。もっと大事なことがあるはず、本来は薬の話は何よりも大事ではないはず、そういう思いを持ちながらお話しています。

しかし現在の精神科の医療が薬を中心に回っているという現実がある限り、避けて通れないことも確かです。その意味で、薬の話をすることは必要悪と言えるかもしれません。