山田 嘉則 (医師)
1994年より心療内科・精神科、在宅医療、緩和ケアなどで活動して来ました。
このたび縁あって、明石駅前にクリニックちえのわをオープンすることとなりました。
こころとからだのかかりつけ医として、地域に信頼されるクリニックを目指します。
最初の1年をふりかえって ( 2018/8/15追記)
画像と同じポロシャツを着ていることに気づきました。季節が一巡りしたことを実感します。
この1年を振り返ってみましょう。
メンタルヘルスの分野ではニーズに見合った医療サービスが提供されていない、と私は考えています。少しでもそのギャップを埋めることができれば、というのがクリニックを立ち上げたときの思いでした。
ですので「うちでは診れません」とお断りすることなく、クリニックを訪れた方のニーズに対応する、が基本姿勢です。医療というのは基本的に「受け身」、求められたことに応えることであり、自分の仕事の分野を限定し過ぎることは好ましくない、と考えています。
ただし、需要と供給に明らかなギャップのある分野はあります。
- トラウマインフォームドアプローチ
- インテグレーテッドケア
- 在宅医療
3つのミッションとして、特にこれらに力を入れて行くことを考えました。
3つのミッション
- トラウマインフォームドアプローチ(trauma-informed approach = TIA)
実際にクリニックを訪れた方の多くは対人暴力経験があり、それが今の困りごと(心身の不調、生活の困難)につながっていました。
TIAについては多くの記事を書いて来ました(トラウマインフォームドアプローチ)が、実際にクリニックちえのわでTIAをどのくらい実践できたでしょう。
クリニックちえのわでの実践には合格点を与えられるのではないか、と漠然と感じていますが甘いかもしれません。
何ができて何ができていないのか、正確な自己採点が必要でしょう。そして、外部評価(特に当事者によるオンブズマン)を得ることを今後の課題としたいと考えています。
2. インテグレーテッドケア(integrated care)
インテグレーテッドケアとは心身両面にわたるケアということで、精神科・心療内科の主治医が身体面のかかりつけ医を兼ねるという意味を含んでいます。高齢者や身体障害者についてその必要性は言うまでもありませんが、精神科を受診する方全般に身体面のケアは重要です。
というのは
- 精神疾患を持つ人は身体疾患を持ちやすい(ACE、生活習慣の影響)
- 向精神薬の副作用は身体面に影響する(メタボリック症候群など)
という事情があるからです。
この意味で、薬に頼らない診療も重要です。
ただし、クリニックちえのわは、設備・マンパワーの理由で、かかりつけ医としてオールインワンの機能は持っていません。検査などは他の医療機関の力をお借りしながら進めて行きたいと考えています。
詳しくはインテグレーテッドケアについてをご覧ください。
3. 在宅医療
私は精神科とは別に緩和ケアや在宅医療に関わって来ました。その知識と経験を生かして、在宅療養する方のメンタルケアができれば、と考えました。「在宅コンサルテーション=リエゾン」と言うべき活動です。
さらに、狭い意味での精神科訪問診療についても十分に提供されているとは言えないようです。そのことをこの1年で知りました。
しかし、在宅医療については、まだまだこれからです。
地域に積極的に働きかけて「顔の見える連携」を作って行くのが課題です。この地域の在宅医療の発展に微力ながら貢献できたらと考えています。
発達障害について
一方、当初想定していなかったこともありました。発達障害についての相談が予想以上に多かったことです。
私自身、研修医の頃から自閉症スペクトラム(当時は高機能自閉症、アスペルガー症候群などと呼ばれていました)に関心を持ち、意識的に研修を受け勉強もして来ました。そして近年、発達障害がよく知られるようになりました。発達障害者支援法も制定され、発達障害者支援センターも設置されています。メディアで取り上げられることも増えています。
しかし、クリニックを立ち上げて分かったことは、医療がこの状況に追いついていないことです。ご本人や周囲が困難を抱え、それが発達障害のためではないか、と考えても、相談できる医療機関が不足しています。
「ギャップを埋める」というスタンスで、発達障害についての相談にできるだけ対応して行く、というのはこれからも変わりません。しかし私たちのできることは限られています。発達障害に取り組む医療機関がもっともっと増えてほしいと思います。
おわりに
課題の多い2年目です。ありのままの現実を見据えながら未来に希望を持って日々の診療に集中して行きたいと思います。
ペシミズムとオプティミズムと呼ばれる、ありきたりで通俗的な精神状態。私の魂は、これら2つの感情を総合し、それらを乗り越える。私は、知性によってペシミストであるが、意志によってオプティミストである。
アントニオ・グラムシ