ピンクのカバのことだけは考えないで下さい

これから3分間、何を考えてもいいですがピンクのカバのことだけは考えないで下さい。

はい、スタート!

 

 

どうでしたか?
難しかったでしょう?
中にはカバの映像がちらついて仕方なかった、という人もいたかもしれません。生まれて一度もピンクのカバなんて考えたことがなかったのに…でもこれが普通です。

「Xのことを考えない」と考えるとき「Xのこと」がその一部に含まれていますよね。つまり、ちょっとややこしいですが、「Xのことを考えない」と考えることがすでにXのことを考えることなのです。

何かつらいことがあったとき、私たちはそれをできるだけ考えないようにします。たいていはそのうちつらいことは忘れてしまいます。
しかしそれは忘れるためには最善の方法ではありません。ピンクのカバの話で分かっていただけると思います。

実際、考えないようにする方法がうまく行かない場合があります。つらいことがトラウマ体験と言われるようなものであるときがそうです。忘れようと努力すればするほど思い出してしまい、さらに忘れようとする…そのことで私たちは大変なエネルギーを費やすことになります。その上、そうすればそうするほど、トラウマ記憶は強まってしまいます。

回避

これが「回避」ということです。
回避という方法はありふれた日常レベルの事柄にはうまく行きます。しかしそれを超える事柄にはうまく行きません。それどころかかえって問題を大きくします。

回避が関係するのはトラウマに関連した問題だけではありません。うつについても回避が関連していることが分かっています。うつ病に対する行動療法的アプローチが有効なのはこのためですし、行動活性化療法では回避行動に焦点を当てます。

回避に対してどう取り組むかについては改めてお話したいと思いますが、予告編として、つらい考えが浮かんで来る場合の対処について一言だけ。回避しようと努力しないことです。考えまいとする努力をやめて、心に浮かぶことはそのままにしておくことです。聞いたことのある方も多いでしょう。そう、マインドフルネスです。マインドフルネスは様々なメンタルヘルスの問題で治療に取り入れられています。

さて、これを読み終わったあなたは一生ピンクのカバのことは考えないと思います。ただ、もしかしてピンクのカバが気になって、忘れよう忘れようと努力して(回避)そのせいで忘れられなくなる人がいるかもしれませんね。

元のバージョンはピンクのカバではなくピンクのゾウです。ピンクのゾウというのは幻覚の代名詞としてよく使われるイメージなのですが、クリニックちえのわバージョンは当然カバです。