地域の事業所にお邪魔して、ピアサポート、相談支援、就労支援など、それぞれの持ち場で働く人たちとお話しながら、クリニックちえのわとして果たして何ができるのだろう、と考えていました。
連携ということ
クリニックちえのわというネーミングには私たちの連携への思いが込められています。
私たちのクリニックは一つの輪です。その一つの輪が他の輪、すなわち本人・家族(必ずしも血縁を意味しない親密な結びつき)、友人、ピアサポーター、そして他の支援者(専門職、非専門職問わず)とつながる、というイメージです。
一つ一つの輪は対等でなければなりません。トラウマインフォームドアプローチとしてもそれが求められます。
対等な関係ということは、特に医療機関であるクリニックちえのわと医師である私が他の支援者と比べて特権的な立場にない、ということです。
医師であるという理由で一目置かれることはなく、「医師?で、何ができるのですか?」と問われることになるでしょう。
医師としてできること
私は何ができるでしょう。医師は専門職としていくつかの業務を独占しています。日常的な業務としては
- 処方すること
- 診断書などの文書を作成すること
でしょう。しかし、ブログを読んでいただいている方にはお分かりのように、薬を使えることは、かつて考えられていたように医師の切り札とはなりません。
診断書は一枚の紙に過ぎませんがその威力はみなさんよくご存知でしょう。医師の署名にこれほど権威があっていいのか、と私自身は疑問を持っています。たとえば障害年金の支給が医師の診断書に左右されるという仕組みは改められるべきだと思います(これについては改めてお話します)。しかし、患者さんにとって必要と判断したときはその権威を利用することを躊躇しません。
診断書作成で患者さんの生活をサポートすることは医師のもっとも重要な仕事の1つと私は考えています。自立支援医療、手帳、年金などの診断書作成に消極的な医師も存在するようですが残念なことです。
また臨床医として、私は臨床医学の知識と技術を持っています。医師が臨床医学を独占している訳ではありませんが、臨床医学のエキスパートであることは間違いありません。
しかし、それは多くの知識、知恵の1つでしかありません。
「知恵の輪」という文字からは、多様な知恵をつないで行きたい、という願いを込めています。医学を含む科学から、当事者の知、そしてご本人の経験知まで。
他の専門職の知識はもちろん、当事者たちの蓄えてきた知識、ご本人が体験から得た知識。体系的な知識から言葉にならない「暗黙知」まで。様々な知恵のがあり、その中で医学が上に立つ訳ではありません。対等に知恵を出し合い、相補って行くことを目指すべきです。それで初めて、支援に役立つ知恵が生まれるのだと思います。
連携の中で医学的知識を提供することは私の役割です。その際、クリニックちえのわの診療の特色として挙げたうちの
4. トラウマに関連したメンタルヘルスの問題に対応しています
5. 最新のエビデンス、新しい医学的知見を常に取り入れます
が特に重要でしょう。患者さんとの直接の関わりだけでなく、支援者の医学的知識をアップデートして行く役割もあると思います。たとえば「薬は一生飲まなければならない」という考えのもとに患者さんに服薬を勧める支援者。最近の知見を伝えることでその人が考えを相対化できれば、よりよい支援につながるでしょう。
人としてできること
さて、そうは言っても、実際には私のすることの大半は医師でなくてもできることです。「医師免許がなくてもできる仕事はいたしません!」とか言っていると仕事がほとんどなくなりそうです。薬以外の治療はすべて医師でなくてもできますし、それなりに高度なスキルが必要な治療(たとえばEMDR)であっても必要なのはトレーニングと経験であって資格は関係ありません。そして、もっとも重要なのは「医師として」ではなく「人として」できることです。
メンタルの不調から回復するには何がもっとも大切でしょうか?
薬でしょうか? カウンセリング(心理療法)でしょうか?
それよりお金だ、という意見も一理あります。生活の困難、心配の少なくとも一部はお金で解決します。自立支援医療など制度の利用が重要な理由です。
しかし、私たちはあえて、それは人である、と言います。
サリヴァンの言葉ももう一度引用しましょう。
人は幸せで成功していたり、満足して超然としていたり、惨めでメンタルを病んでいたり、様々ではある。しかしそういう違いよりもまず人間なのである
そこに
医師であっても
をつけ加えてよいと思います。
連携のイメージとしての知恵の輪
大切なことは、知恵の輪のそれぞれの輪は同じ素材=人という素材からできている、ということではないでしょうか。同じ素材で形が異なる輪が集まってつながる、そんなイメージで連携を考えて行ければいいな、と考えています。