前回、私たちの考えを述べました。
背の低い人や左利きの人と同じく、自閉症/ADHD/LD特性が高い人が出会う困難は、何よりその人が少数派だからなのです。そのために
- できること/できないことが多数派と異なっている
- 社会、環境が多数派向けに作られておりそのための不利益を被る
ということになっていて、それが「障害」となっているのです。
仮にASD/ADHD/LD特性が高く、そのために非定型発達と呼ぶことができるとしても、それが直ちに「障害」となる訳でもありません。実際、非定型発達の人が定型発達の人に比較して劣っているということはありません。
このことをASD特性に即して補足しておきます。
自閉症スペクトラム障害の長所…と苦手
ASD特性はウィングの3つ組(Wing’s triad)と言われる次の3つの領域で現れるとされています(注1)。
- 社会性
- コミュニケーション
- 興味関心
発達障害のエキスパートである吉田友子(よしだゆうこ)さんの
『あなたがあなたであるために』 (注2)
では、ASD(引用中ではAS)の人の社会性について次のように説明されています。
ASの人の社会性の特徴は、例えば次のような現れ方をすることがよくあります。こうした社会性の特徴は不都合の原因になることもあるけれど、同時に、人間として大切な長所でもあります。
そして吉田さんはまず長所から具体的に挙げて行きます。
こんな長所をもつ人が多いです。
- 常識にとらわれないユニークな発想の持ち主(これはイマジネ ーションの特徴でもある)
- みんなが無視してしまうようなルールでもきちんと守りたいと思うきまじめさがある
- 年齢や身分で相手を判断しない公平さをもつ人が多い
- 不正をきらう、正義感の強い人
- 友だちを裏切るのは嫌だと思っている、誠実な人 ・気持ちの優しい人が多い
- マイペースに自分の思いをつらぬける強さがある
- ひとりで過ごす技術がある
そしてその後にいくつか「苦手」なことを挙げます。
でもこんな苦手をもつことも
- 常識が足りないと言われてしまうことがある
- 相手の考えや気持ちがわからず苦労することがある
- 友だち関係でトラブルが起きやすい
- 気を遣う割には浮いてしまう
注:これらは例ですから、ひとりの人に全部が当てはまるわけではありません。
このように、ASD特性についてその長所も含めて知ることが大切です。定型発達者中心の社会では長所が認められることが少なく、そのために非定型発達者の自己評価は低くなりがちです。長所を知ることで自己評価は自ずと高まります。
そして長所を活かし短所(苦手)を補うことが課題になります。ただしこれは本人だけに求められる訳ではありません。定型発達者中心の社会の課題でもあります。合理的配慮を求めて行くことが重要です(合理的配慮については改めて述べます)。
それでは今回の本題に入ります。
クリニックちえのわの発達障害診療
クリニックちえのわの診療では次のことを行っています( 発達障害への取り組み 1 )。
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- 発達障害の診断
- ご本人やご家族への説明と心理的サポート
- 手帳・年金診断書の作成
- 合併症、二次障害の治療
- 関係機関(発達支援センター、就労移行支援事業所など)への紹介
- 関係機関との連携
- 学校や職場への働きかけ
達成度は様々で、合格点をつけられない項目も含まれています。力不足を痛感することは度々ですが、スタッフのスキルアップ、連携の強化などで達成度を上げて行きたいと思っています。
さて、実際の診察はこんな風に進みます。
まずご本人の相談内容、すなわち
- 主訴(主な困りごと)
- 受診理由(なぜ診察に来られたか、という理由)
をお話いただく(一部は問診票にあらかじめ記入)ことから初回の診察はスタートします。それをお聞きし、話し合う中で、どのような問題で、どのような解決策がありそうか、私たちができることが何か、などを考えて行きます。
その作業の一部に診断があります。
メンタル不調の背景にある学校や仕事での摩擦、対人関係のストレス、そこに発達障害が関係していることがあります。
ご本人から「私は発達障害ではないか?」と問われることもありますし、カウンセラーや医師に「発達障害かもしれない」と言われた、という方も来られます。その場合、前回、今回とお話したような、「発達障害」についての私たちの考え方を少しお伝えしてから診断のための面接を行います。
診断面接の流れは
- 簡単なチェックリスト(自記式質問表)に記入いただく
- チェックリストの項目に沿って質問
- 必要な方は日を改めて標準的な診断面接を行う
- 結果の説明
およそこのようになります。
引き続き、クリニックちえのわの診断面接をご紹介して行きます。
最近は、ウィングの3つ組に加えて、感覚の敏感さ/鈍感さが注目され、DSM5の診断基準でも取り上げられています。
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非定型発達のご本人とご家族、ご本人と関わる人たちに是非読んでいただきたい素晴らしい本です。中学生以上であれば一人で読めると思います。