薬に頼らない診療とのつながりで「うつ」の話をします。
心療内科・精神科と言えばうつを連想する人は多いのではないでしょうか?
15年ぐらい前でしょうか。新しい薬が日本で使えるようになり「うつは心のかぜです」というキャンペーンが行われました。
このキャンペーンで精神科の敷居が少しは低くなったとすれば、それはもしかするとよいことだったのかもしれません。
ただ、うつは薬を飲めば治る、と多くの人が思ったかもしれません。うつになれば受診して薬をもらえばOK、のように。
でも、実はこれは疑わしいのです。
薬が効く、という場合、ある状態にあるすべての人に効く訳ではありません。
「治る」というほど効く、という訳でもありません。
偽薬(見た目は区別がつかないが薬としての効果はないもの)と比べて、一部の人の症状をいくらか改善する、ということが薬が効くということのおおよその意味です。
さて、うつの薬を抗うつ薬と言いますが、薬が効くという意味を理解した上で、改めて問いましょう。
抗うつ薬は効くのでしょうか?
実はこれについて最近、否定的な報告が相次いでいます。
2010年には中等度までのうつ(うつで外来通院の方はほとんど軽症から中等度です)にははっきりした効果がない、という報告が出ました。2017年には、抗うつ薬は効果は小さく有害作用の方が優る、という報告が出ました。どちらもトップジャーナルと言われる信頼性の高い医学雑誌に掲載されています。
どうやら、うつ病は薬で治る、とは言えないどころか、薬は飲まない方がいいのではないか、という方向になって来ているようなのです。
これを踏まえて私たちは、薬以外の方法を中心に、うつ病に対する治療を提案して行き合いと考えています。
おまけ: 「うつは心のかぜです」というキャンペーンについて
このキャンペーンについて、Wikipediaの病気喧伝(Disease mongering)という項目には批判的に書かれています。
軽症のうつ病を説明する「心の風邪」というキャッチコピーは、2000年ごろから特に抗うつ薬パキシルを販売するためのグラクソ・スミスクラインによる強力なマーケティングで使用された。後に、軽症のうつ病に対する抗うつ薬の効果に疑問が呈され、安易な薬物療法は避けるよう推奨された。しかしながら、日本でのこのキャンペーンにより薬の売り上げは2000年からの8年で10倍となり…(後略)
(詳しくは引用元をご参照下さい)
そもそもかぜ自体、薬で治るわけではありません。
かぜはウイルスによる上気道(鼻から気管支まで)感染のことです。発熱、咳、鼻水などを抑えるために薬を飲むことがありますが、それはかぜを治しているのではありません。むしろ発熱は体温を上げてウイルスを退治するからだの働きであれば、熱を下げることはかぜを治りにくくしている可能性もあります。抗菌薬(いわゆる抗生物質)はウイルスには効きません。同じ気道感染でも重症の肺炎は細菌によるものがほとんどなので抗菌薬は効きます。しかしかぜをこじらせて肺炎になるのを抗菌薬は予防しません。(かぜに対する抗菌薬の処方については以前から問題視されていますが、いまだに一部で続いているようです)
なのでかぜも薬で治るわけではありません。
強いてこのたとえを使うとすると
- 誰でもなり得る
- ただし、心身が弱っているときになりやすい
- 休息による自然治癒が基本
という意味でならよいかもしれません。