広場恐怖の治し方(暴露という方法)ー パニック障害5

パニック発作はそれ自体がとてもつらいものです。

しかし、発作が繰り返し起こることで、発作が起きそうな場面を避けるようになる、という広場恐怖は生活に大きな支障をもたらします。

パニック障害でクリニックちえのわを受診する方も、大半が「電車に乗れなくなって通勤できない」など、広場恐怖に悩んでおられます。

広場恐怖はagoraphobiaの訳語です。agoraとは広場のこと、phobiaとは恐怖、医学用語では「恐怖症」の意味です。高所恐怖、尖端恐怖、血液恐怖など、怖れる対象は様々ですが、ある状況や対象を前にすると強い不安が起こり、それらを避けるようになる、というのは共通です。

広場恐怖も恐怖症の一種ですが、多くの場合、パニック発作が引き金です。

詳しくは、パニック障害の仕組みに書きましたが、安全行動と回避という不安に対する自然な対処が、結果として「逃れられない」「助けを呼べない」と思わせる状況や場所を怖れる、というさらなる困難につながります。

暴露という方法

広場恐怖を治すにはどうすればよいでしょう。実は恐怖症すべてに当てはまる()のですが、暴露(エクスポージャー)という方法が有効です。暴露は認知行動療法の代表的な方法です。

電車に乗れない場合で説明しましょう。

電車を降りる、という安全行動、電車に乗らない、という回避で不安に対処していると、電車移動という状況は不安に結びついたままです。それどころか不安はふくらんで行き、いよいよ危険に感じるようになります。

元々は電車移動は安全な状況でした。しかしパニック発作とそれに対処する安全行動と回避によって危険な状況に変わってしまった訳です。これは心理学で言う学習です。

さて、学習したことは変えることができます。学習し直したり上書きしたりすることができます。ここでは電車移動が安全であると改めて学習すればよい訳です。

その方法が暴露です。簡単に言うと、安全行動や回避を行わず、不安に身をさらす(暴露する)ことです。

そんな恐ろしいこと、と誰しも思うでしょう。パニック障害の人は特に、そんなことしたらとんでもないことが起こる、と思いがちです(破局思考)。

では実際に不安に身をさらし続けるとどうなるでしょう。パニック障害の人が思いがちなように際限もなくエスカレートして行くでしょうか。実はそうではありません。慣れてくるのです。心理学で馴化(habitation)と言います。長くても2,30分で不安は消えて行きます

古いことわざで「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言います。幽霊だと思ってたのは実は枯れたススキだった、という意味です。いったんそれが分かれば次からは怖れなくなります。

電車に乗って不安が起こるに任せ、苦しくても安全行動は取らず、不安を味わい続けて最後に不安が消える、この体験をした後は電車を前ほど危険に感じなくなります。これを繰り返すことで電車移動を安全であると再学習することができる訳です。

これが暴露が広場恐怖に(実は恐怖症全般に)有効な理由です。拍子抜けするほど単純ですが、この方法の効果は医学的に確かめられています。

次回は暴露の実際のやり方を説明します。

恐怖症より広く、回避と安全行動が関わる問題に有効です。たとえば強迫性障害に対するERP(暴露反応妨害法)、PTSDに対するPE(持続エクスポージャー)などです。ちなみにPEと並んでPTSDへの有効性が確かめられているEMDRは暴露とは違う考え方に基づいています。