5月12日の日曜日、木の芽家族会の総会でお話しして来ました。
会場は兵庫県福祉センター、JR灘駅から北に歩きます。駅から近いとはいえ、神戸らしい上り坂。初夏を思わせる日差しに少し汗ばみながら、福祉センターに到着しました。
会場となった一室には40名ほどの老若男女。熱気を感じました。主にご家族ですが、当事者や実習中の学生さんもおられました(後で聞きました)。
カバのぬいぐるみやサクランボで歓迎していただき、気持ちがほぐれたところで開始時間を迎えました。
打ち合わせでいくつかお題をいただいていました。
それを受けて少しお話を用意して来ましたが、せっかくなのでこの機会に医者に聞いてみたいことを会場にたずねました。
何人かの手が上がりました。
その中で
- パソコンの方ばかり向いている医者、患者の目をじっと見て話す医者、どちらがよいのか?
- 運動や栄養など薬以外の方法がよく言われているが効果があるか?
というご質問があり、これについて私の考えをお話するところから始めました。
(以下、分かりやすいように当日のお話に少し加筆しています)
パソコンばかり見ないで!
ずっとパソコンの方を向いているのは当然ダメです。
相手が話すことをこちらが聞くことはもちろん、そのことが相手に伝わって始めてコミュニケーションが成立します。
相槌を打つ、適切な言葉を返す、なども大切ですが、言葉以外の部分も大切。目を合わせること=アイコンタクトもコミュニケーションの重要な要素です。それは、相手に関心を持っていること、理解しようと努力していることを伝えます。
ただし、じっと目を見続けるのは相手に圧迫感を与えてしまう場合があります。患者さんの中には視線恐怖・自己視線恐怖と言って視線を交わすことに恐怖を感じる人もいます。なので私は、相手の鼻や口のあたりを見ながらときおり視線を合わせるようにしています。
運動は裏切らない
精神科に限らず、たいていの病気に運動は有効です。運動強度や頻度など、中身を考える必要はありますが、起きて身体を動かすことで、心地よい刺激を身体に与えたり、身体をほぐしたりすることは、うつ病その他、メンタルな病気にも効果があります。
運動は裏切らない、と言っていいかもしれません。
精神的に重症のとき、何もできなくなることがあります。たとえば意欲が湧かず布団をかぶって寝込んでしまうような場合。この状態では、嫌なことは避けられるでしょう。しかしいいことも起こらなくなります。外的な刺激がなくなります。
すると何が起こるでしょう。まず頭の中のこと、過去のつらい記憶、未来の心配事に囚われてしまいます。それに加えて、身体の感覚、たとえば内臓感覚に注意が向きます。
胃のあたりの感覚を意識してください。心地よいということはまずなく、気持ち悪く感じるはずです。不快感だけでなく、ときに何かの病気ではないか、と心配になることもあります。
私はたとえばうつの患者さんに対して、「頭でなく身体を動かす」と言っています。
ただし、ここで気をつけたいことが2つあります。
一つは、無理強いしないことです。本人が自ら、ということが大切です。起きてみる、ちょっと動いてみる、それで気分がまし、という体験、それがきっかけで本人が進んで動くようになる、ということです。無理強いされると「しんどいのに何で?」「しんどさを分かってない」となってかえって逆効果になりかねません。家族や治療者は背中を押す役割。指示命令にならないことが肝心です。
かつて精神病院では寝ている入院患者さんを叩き起こすようなことが行われていたようです。それが逆効果であったことは言うまでもありません。
しんどかったら寝ていていいのです。ただし、十分に休んで、起きてみようかなという気持ちが現れたら少し動いてみることが同時に大切です。ご家族であれば、散歩など、一緒に何かすることを誘ってもよいかもしれません。
今回はここまで。次回はあらかじめいただいたお題の一つ、薬についてのお話です。