パニック障害に使う薬ー パニック障害 3

パニック障害の治療についてお話して行きます。

パニック障害の治療には薬を使う治療(薬物療法)と使わない治療(心理療法)があります。クリニックちえのわの治療のメインはパニック障害の場合も心理療法、特に認知行動療法です。

ただし、薬物療法も心理療法と同等の効果があるとされています。そこでまず薬物療法について説明しておきたいと思います。

同等の効果と言ってもそれぞれの治療には長所と短所があります。薬物療法については

  • 長所
    • 簡単、飲むだけでよい
    • 手軽、どのクリニックでも薬は出してくれる
  • 短所
    • 薬をやめると再発しやすい
    • 副作用がある
    • 広場恐怖には効果が劣る

でしょうか。

費用面での比較ですが、心理療法が保険診療内で行われる場合には、心理療法の方が安上がりです。薬の費用がかからないのと比較的短期間で治療が終わるためです。

さて、薬物療法と心理療法のどちらかを患者さんが選べるのが理想ですが、実際には、薬物療法しか利用できないことも多いと思います。クリニックちえのわでも、心理療法との併用ですが薬を使うこともあります。ですので、パニック障害の薬物療法について知っておくことは意味があると思います。

パニック障害に使われる薬

パニック障害に対して現在使われているのは抗不安薬と抗うつ薬です。

パニック障害に抗不安薬は使わない方がよい

日本でもっとも多く処方されているのは抗不安薬でしょう。通称「安定剤」で心療内科・精神科以外でもよく使われていると思います。「軽い薬」とかパニック障害の場合には「発作のお守り用に」とか説明された、と患者さんは言われます。

代表的な薬は、

ジアゼパム(セルシン)アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)、エチゾラム(デパス)、ロラゼパム(ワイパックス)、クロチアゼパム(リーゼ)、クロキサゾラム(セパゾン)、ブロマゼパム(レキソタン)、などなど

クリニックちえのわの患者さんが以前に処方されていたという薬を挙げてみました。たくさんの銘柄がありますが、すべてベンゾジアゼピンという種類の抗不安薬で大きな違いはありません。

しかし、抗不安薬はパニック障害にはお勧めしません

NICEのガイドラインには

Benzodiazepines are associated with a less good outcome in the long term and should not be prescribed for the treatment of individuals with panic disorder.

長期的には劣るので使うべきではない、とあります。

発作が起こったときの頓服薬として使うことは特にお勧めできません。抗不安薬には耐性(繰り返し使っていると効果がなくなってくる)と離脱症状(薬が切れるとかえって不安が高まる)という問題があるので長期的にはむしろマイナスになり得ます。

心理的な問題もあります。頓服薬を飲むということ自体が安全行動になるからです。仮に飲まずに「お守り」として持っているだけでも「お守りがあるから大丈夫」と言い聞かせるならそれは安全行動です。それも長期的にはマイナスです。

一方、UpToDate(有料コンテンツなので一部しかご覧になれません、すみません)では他の治療の効果が十分に上がらないとき、患者さんに薬物依存傾向がないことを確かめた上で使ってもよい、となっています。日本でよく行われているような最初の手段ではなく、最後の手段なのです。

抗不安薬は副作用を考えると決して「軽い薬」ではなく、むしろ使い方が難しい薬です。にも関わらず気安く処方されている現状には批判も出ています。

さて、パニック障害の治療薬として効果が認められているのは抗うつ薬です。

パニック障害に使うとしたら抗うつ薬

抗うつ薬には心理療法と同等の効果が認められています。

現在パニック障害に使われる主な抗うつ薬はSSRIという種類の薬で、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エススタロプラム(レクサプロ)、パロキセチン(パキシル)などがあります。

なぜうつの薬が効くの?と疑問に思われる方もおられるかもしれません。結論から言うと、なぜ効くのかは分かりません。そもそも、SSRIがうつに効く理由もよく分かっていないのです。脳内伝達物質のセロトニンがどうとか説明されることがありますが、その種の脳科学的・生物学的説明はよく言って1つの仮説、悪く言えば疑似科学的なお話に過ぎません。

このように理由は不明ですが、SSRIはうつにも不安にも一定の効果があることは臨床研究によって認められています。

SSRIの欠点

SSRIには欠点があります。

まず効果が現れるのに時間がかかることです。2,3週間かかると考えた方がよいでしょう。一方副作用は飲み始めた直後から出ます。よくあるのは消化器系の症状、胃がムカムカする、吐き気がする、便秘・下痢などです。

この欠点を補うためには

  • このような薬の性質を説明しておく
  • 少量から開始して副作用を見ながら十分な量に増やしていく
  • 副作用対策を行う(吐気が起きやすい人、吐気が不安な人にはあらかじめ吐気止めを出しておく、など)

などが必要です。

ただ、これらを行っても残る問題があります。薬の効果が現れるまではどうすればよいのでしょう。ただひたすら待つ、というのはつらいのではないでしょうか。

なので私は、抗うつ薬を出した場合は、パニック障害についての説明(前回、前々回でしたような)をした上で、呼吸再調整法をお教えすることにしていました。人によってはパニック発作がこれで軽くなって苦にならなくなる、ということもありました。

よく考えると、これはすでに認知行動療法の第一歩です。それなら薬を使わず、認知行動療法だけでもいいんじゃないか、と思うようになりました。実際、不眠症のところでお話したように、最近の心療内科・精神科では、非薬物療法が主で、薬物療法はそれを補う、という位置づけになりつつあります。その意味でも、まず簡単なものでも認知行動療法を行い、必要なら本格的な認知行動療法にステップアップしたり薬を併用したりする、というのは正攻法ではないかと思います。

もう一つの欠点は、抗不安薬ほどではありませんが、SSRIにも離脱症状があり、薬を終了するのに苦労する場合があることです。特にパロキセチン(パキシル)とデュロキセチン(サインバルタ、SSRIではないが使われることがある)は離脱症状のためにやめにくい薬です。ごく少量ずつ減量する、とか他の薬に変更してから終了する、とか方法はありますが、なかなかやめられない方もおられます。

薬物療法の短所

短所は何と言っても、薬が効いて一度はよくなっても、薬をやめると再発しやすいことです。この点は心理療法に劣ります。NICEのガイドラインには、6ヶ月続けてから徐々に減量して中止する、となっていますが、その後に再発することがある訳です。再発を恐れるなら無期限に薬を飲まなければなりません。これは副作用による心身への影響を無視できませんし、延々と通院して薬を飲む、というのはそもそもとても不自由です。

そして、広場恐怖は薬物療法に馴染みません。不安が軽くなって、これまでできなかったことができるようになる、たとえば電車に乗れるようになることはあります。しかし、すでに発作が少なく軽くなっているにも関わらず電車に乗れない、という方も実は多いです。その場合にはSSRIが効いても広場恐怖自体は変わらない、ということになりがちです。広場恐怖(agoraphobia)に限らず、特定の状況や対象を怖がる恐怖症(phobia)に対して有効なのはやはり認知行動療法なのです

薬物療法の長所

とはいえ、認知行動療法を提供している医療機関はまだまだ少ないのが現状です。近くにそのような病院やクリニックがない、というパニック障害の患者さんも多いでしょう。その場合でも薬物療法はできます。

認知行動療法については次回お話しますが、人によってはやりづらさを感じる内容も含まれています。認知行動療法は診察室だけでは完結せず、生活の中、パニック障害が起こっている現場で、与えられた課題(ホームワーク)をこなすことで進んで行きます。それができない、とか、やりたくない、という方には、薬物療法だけという選択肢が好ましいかもしれません。

次回は、パニック障害と広場恐怖の心理療法についてお話します。