トラウマ体験を語ること、聴くこと〜フラワーデモで考えたこと

1月13日、神戸フラワーデモに参加しました。今回はウィメンズネット・こうべさん主催のシンポ「女性の視点から災害支援を考える」に引き続いて行われたため、いつもの東遊園地ではなく、JR元町駅前でのスタンディングでした。

初回の東京でのフラワーデモについて、発起人である北原みのりさんは


予定していた方のスピーチを終えたとき、「私も話したい」と次々に手をあげる方がでてきて、ひとりひとりマイクを持って、ご自身の被害の体験を語りはじめました。「誰にも話したことがないことを話すのはやっぱり怖い。だけど、“なかったこと”になる社会のほうが嫌だ」と話してくれました。その場にいた みんなも、私も、気持ちを解放して、「“もう変えられない過去”を話すことによって、未来を変えたい」という思いを共有できる時間になりました。とてもあたたかい、優しい空気になったことが、印象に残っています。

北原みのりさんに聞く! フラワーデモのいま

と語っておられます。

私(山田)が初めて参加した5月11日大阪でのフラワーデモでも若い人が自らの体験を話す場面があり、フラワーデモに参加しましたではそのことについて肯定的に書きました。

参加者が自分の体験を話す、それを参加者が聴く …フラワーデモという場には共感的な暖かい雰囲気があります。話す人も聴く人もエンパワーされるのではないでしょうか。そうあってほしいと思います。

フラワーデモへの不安

しかしその一方で、このような場でのカミングアウトについて、最近は不安も感じています。
トラウマ体験を話すこと、聴くことでつらくなる人も必ず存在すると思うからです。

話の内容が自分の体験と重なってフラッシュバックした人はこれまでのフラワーデモでいなかったのでしょうか。

確かに場の持つ力は大きいです。思いを共有する仲間たちに囲まれていることでそのようなことは起こらないのかもしれません。

ただ、仮にそうだとしても、その後は大丈夫なのでしょうか。

診察の場でトラウマ体験を語ることで記憶が活性化されて、トラウマ関連症状が悪化することは知られています。トラウマ治療(trauma-specific therapy)ではこのことに配慮し、予防や対処の工夫が行われています。

通常の診察でも、トラウマ体験について話そうとする患者さんに、話すと後でつらくなるかもしれないこと、話せることだけ話せばよいことをあらかじめ伝えます。仮に話しやすい治療者であっても、共感的に傾聴されても、にも関わらず、いやむしろだからこそ危険がある、トラウマ・インフォームドな治療者はそれを知っています。

フラワーデモで話す人、聞く人にも危険があると私は考えます。
参加者の大半は、デモが解散して日常に戻れば、再び話せない環境が待っているのではないでしょうか。それが心配です。デモの後でつらくなった人が助けを求めることができるような何かが必要ではないでしょうか。

このことはすでにBroken Rainbow-Japanさんが指摘しています。

このことが気になっていたところ、年末から年始にかけて過去の性被害を話す患者さんが何人かおられました。

そのうちの一人は、伊東詩織さんと加害者の記者会見を見て以降、20数年前の出来事を繰り返し考えてしまうようになった、そのせいで眠れない、と言っておられました。

伊藤さんの勝訴は希望の持てるニュースでした。エンパワーされた人は多かったと思います。しかしその一方でこのようなこともあるのです。

この間の報道に影響されて調子を崩したサバイバーも多いではないか、と思いました。実際、報道以後、過去の性被害を話す患者さんは増えた印象があります。(だとしても伊藤さんの責任ではなく、責めを負うべきなのはどこまでも加害者であることは言うまでもありません。)

語る人、聴く人へのケアを

伊藤詩織さんの勇気ある実名でのカミングアウトとそれに触発された人々の行動、そしてフラワーデモ、日本でのMe Too運動であるそれらは素晴らしいものですし、もはや後戻りできない流れを作っていると思います。

私は、声を上げるな、というのではありません。もっと声をあげてほしい、と思います。しかしそれはより安全であってほしいし、さらに声を上げることがトラウマからの回復へとつながってほしい、と思っています。

フラワーデモの後、参加者で話し合う場が持たれました。そこでこのような僕の不安をお話ししました。

水を差すような発言になることを心配しましたが、幸い、参加者のケアの必要性について賛同する方が多くおられました。
そして、次回の神戸のフラワーデモでは、つらくなったときの連絡先のカードを参加者に配ろう、という話になりました。

私としては、できればデモの最初に、話すこと、聴くことで過去の体験がよみがえってつらくなるかもしれないこと、そのときは席を外してもよいしスタッフに伝えてもよいこと、などをアナウンスしてほしいとも思っています。そのこともデモの主催者に伝えたいと思います。

With You 〜 ケアのつながりへ

フラワーデモは2月11日、3月8日で一区切りを迎えます。

フラワーデモは今年2020年3月8日国際女性デーに、一周年を迎えます。2020年は、2017年の性犯罪刑法改正で残された課題の解決に向けて大切な一年になるでしょう。この日に、私たちは全国47都道府県、全ての都道府県でフラワーデモが行われることを目指したいと思います。毎月11日に行ってきた公式のデモとしては、一年経ったのこの日を一端の区切りにすることになりますが、あげられた声を止めることはできません。4月以降も様々な形で、私たちが築いてきたこの声を広げていきましょう。
性暴力のない世界を、そして被害者の視点にたった刑法改正を目指して、諦めない声をあげていきましょう。

フラワーデモのサイトより  

人は性被害について(沈黙せず)語る権利があります。そしてそれが傾聴される権利があります。それに加えてケアされる権利があります。それは医療や支援の場だけではありません。フラワーデモのような(運動の)場でもです。

With Youがスローガンだけでなく、ケアする・される・し合うつながりになって行けば素晴らしいと思います。

4月以降も、自分なりの視点でこの運動を見守り、関わって行けたらと思っています。